新聞連載「音楽-今昔」第1回
「赤とんぼ」「この道」など、童謡の名曲は、今も多くの人の記憶に残っている。
詩情豊かな言葉と美しい旋律。幼いころに耳にした歌は、年月を経ても、そのときの風景やぬくもりを呼び起こしてくれる。
今の子どもたちにも伝えたい、童謡のやさしさについて考えてみたい。
童謡が伝える、言葉と音の美しさ
童謡は、自然のうつろいや日常の風景を題材としながら、子どもの目線に寄り添う、詩と音楽の融合といえるだろう。
言葉の響きや旋律を通して、季節の気配や人のやさしさに触れる。そこには、子どもの感性に語りかけ、豊かな情緒や想像力を育むきっかけがあるように思う。
何気なく口ずさむ短い歌の中にも、言葉と音の美しさを味わう世界が広がっている。
北原白秋と山田耕筰が紡いだ童謡の世界
大正時代、小田原で創作活動をした詩人・北原白秋。その白秋と作曲家・山田耕筰は、「ペチカ」「この道」など、今も歌い継がれる作品を生み出した。
西洋音楽の素養を持つ山田の作品には、子ども自身が歌うには難しいものもある。それでも、詩の情景と言葉の響きを大切にした旋律は、聴く人の心に深く届く。
三木露風の詩に山田が曲を付けた「赤とんぼ」もまた、世代を超えて親しまれている一曲である。
夕方、外遊びをしている子どもたちに帰宅時間を知らせる「愛のチャイム」に「赤とんぼ」を採用している自治体もあり、夕方を連想する曲として定着している。
親子で口ずさむ時間が、心の原風景に
近年、音楽のスタイルは大きく変化し、アップテンポな楽曲や、言葉数の多いリズミカルな曲も子どもたちに親しまれている。
さまざまな音楽を楽しむ日々の中で、童謡のように静かで素朴な歌に触れる時間もまた、子どもにはかけがえのないものではないだろうか。
就寝前や車中でのひととき、親子で一緒に童謡を口ずさむ。
忙しい日常のそんな一コマが、子どもの記憶には、幸せな原風景として思いのほか深く刻まれるものだから。
五月に聴きたい童謡「みどりのそよ風」
そんな童謡の名曲から、五月にぴったりの曲を一つ紹介したい。
「みどりのそよ風」
作詞:清水かつら/作曲:草川信
緑のそよ風いい日だね
ちょうちょもひらひら豆の花
なないろ畑に妹の
つまみ菜摘む手がかわいいな
幼い女の子の、小さくてふっくらした手が見えてくるような、やさしい目線。この歌詞が私は大好きである。
身近な風景の中にある愛おしさに、そっと目を向けさせてくれる。そんな童謡のやさしさを、今の子どもたちにも手渡していきたい。
執筆:Akika
歌うピアニスト/ボイストレーナー/ミュージック&ライフナビゲーター
神静民報「音楽-今昔」第1回(2025年5月30日掲載)をもとに、Web掲載用に加筆・再構成しました。